キングダム2 遥かなる大地へ
原作を濃縮還元したオリジナルストーリー

前作は期待せず観に行って「なかなかええやん」と楽しめたので、今作も期待はせず、でも楽しみにしていた。映画そのものを楽しめたし、原作を読んでいるので「ここをこう改変するのかぁ」という見方も楽しめた。それにしても出てくる役者がいちいち気になる。というのも、ほとんどの役者が原作キャラクターのイメージを壊さず好演していたからだ。

真っ先に「はい正解!」と思ったのが、沛浪を演じたプロレスラーの真壁。見た目と立ち居振る舞い、そして威圧的な態度が素晴らしい。本人かと思った。
尾平と尾到の兄弟は見た目はちょっと違うと思ったけれど、時間が経てば「なるほど」と思えた。この2人は尾兄弟だったのだ……という風に見えてくる。2人の性格の違いが原作より少し誇張されていたのもキャラが立って良かった気がする。
澤さんはガタイこそ細くて不安になるけど、人柄はかなりしっくりときた。強くはなくても勇気、根性があるというか。

そして、羌瘣。アクションは流石。役者本人が持つ強さが滲み出てきている気がして、迫力もある。それでいてちょっとした仕草が可愛らしかったり、清野菜名は正解の一人だと思う。

呉慶はメイクのせいでしばらく誰かわからなかったけれど、小澤征悦と認識できた瞬間「なるほど」と納得。セリフが少なくて醸し出す雰囲気が重要な役なので、重そうな存在感が「正解」って感じ。ただ、「すり潰せィ」がセリフだけだったのはとても残念。やっぱりあの動作は目にしたかった。
麃公が豊川悦司であることは知っていたけれど、「なんか違う気がするなぁ……」と思っていた。でも、見た目や振る舞いは素晴らしく、流石の存在感だった。ただ、声質が麃公ではない。高いし軽すぎる。もうちょっと野太さが欲しい。豊悦本人が持つそこはかと無い剽軽さは麃公に合ってると思うんだけど。

宮元、縛虎申という重要な脇役は見た目は似ていないけれど、キャラクターの特徴を絞り出していた。特に縛虎申は話の流れを知っているのに、最期はかなりグッときた。こうした出会いと経験が信を兵士に、武将にしていくことになるのがよくわかるいいシーンだった。

残念だったのはまだ本格的な登場とはならなかった、呂不韋陣営。特に呂不韋は強大さや威圧感が感じられない。佐藤浩一がちょっと歳を取りすぎで、呂不韋というよりも蔡沢みたいだった。もっと若い頃の佐藤浩一だとしても、呂不韋の持つある種の愛嬌は感じられないと思う。
蒙武は良い雰囲気だけど、もう少し身体的な大きさが、見た目の圧倒的な威圧感が、欲しい。原作通りのデカさは厳しいのはわかるけど、このままだと汗明に殴り殺されないか心配になる。
昌平君の玉木宏はちょっと細すぎに見えた。昌平君の奥底にある怖さはいい感じに醸し出せていると思うけれど、もう少し“武”の強さに必要な見た目が欲しい。原作でも“武の力”に関する描写はあまり描かれていないし、映画はその部分は無しとして描いていくのかもしれないけれど。

物語はギューッと圧縮されて、「強引やな……」と思う箇所はいくつかあるけれど、原作としっかり通底しているものはあると思う。原作がまだまだ終わりそうにないし、映画との違いはどんどん大きくなるのは決まりきっている。映画『キングダム』は漫画『キングダム』を映画用に再構築しているのではなく、漫画『キングダム』の原作者が『史記』を元に映画『キングダム』の脚本を書いていると思った方が、原作との差異を気にせず楽しめそうな気がする。

原作がまだまだ終わりそうにないし(映画公開時でまだ一国も滅んでいない)、映画は漫画と違って役者の風貌の変化などリスクも多いので、間をあけずにどんどん製作して欲しい。なんだったら先に映画が完結してもいい。それぐらい話の枝葉は省略されたり統合されているし、それでも楽しめる物語だと思う。

キングダム 第5巻

映画で描かれるのは5巻〜9巻……なんだけど、物語と直接関係ない個人を掘り下げるエピソードや合戦・戦略の詳細は省かれている。さらに時系列も大胆に、でも物語の本質を変化させずに入れ替えられている。素晴らしい。ただ、嬴政の超重要エピソードも省かれているのは残念。ただあれは一つの物語として完結しているので、この作品には収められないのもわかるし、今後映画で描かれるのか、とても気になる。

What’s so bad about feeling good?

Text by pushman

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