これだけは、村上さんに言っておこう
お軽い悩み相談

喜び勇んで「新刊だ」なんて書いてしまいましたが、村上朝日堂の内容を再編集したものでした。もちろん書籍化は初なんですが「村上朝日堂 夢のサーフシティー」と「スメルジャコフ対織田信長家臣団」のCD-ROMに村上朝日堂は全て収録されていますから、既出といえば既出です。まあモニタで全部読むのはかなりしんどいので(経験者談)、ゆっくりと読みたい方には大変お勧めできます。また、台湾、韓国の読者からの質問が初公開されています。めったにない機会をお互いに有効利用しようという感じで、日本の読者よりも作品に対する真面目な質問が多く、回答も丁寧です。これはなかなか興味深かったです。

『これだけは、村上さんに言っておこう』単行本

こういった本は村上春樹を元々好きじゃないと買わないと思うのですが、多くの人に読んでもらいたいと思いました。ほんとにどうでもいい質問もあるのでそういう部分はファンしか楽しめないと思いますが、結構切実な悩み、例えば自分の性格についてとか、将来についてとか、まあそういう他人ではどうしようもない相談もかなりの数が寄せられています。それらの相談に対して、いろんな悩み相談系の本やテレビのように結論は出されません。出せるわけがありませんよね。人それぞれ違うんだから。この本に書かれているやり取りは、簡単に「答え」を求めている人にはまったく役立たずです。でも、読者と村上春樹の、時に栓無いやりとりを読んでいると、当たり前の事に気付きます。みんないろいろ大変なんだなと。そういう意味ではとても役に立ちます。

誰しもが自分の能力や将来に大きな不安を抱えながら生きています。そのまっただ中にいる時、他人の良いところばかりが見え、よけいにしんどい状況に自分を追い込んでしまいがちです。嫉妬したり、ねたんだりしている自分に気がついてしまうともうダメです。悲劇の主人公に思えたり、とんでもく嫌な自分が見えたり、自己嫌悪スパイラルにはまってしまいます。そこから抜け出すためには自分の意志では呼び出せない、相当猛烈楽観的な思考が必要になります。そうなるためのスイッチは他人の失敗かもしれませんし、華麗なサクセスストーリーかも知れません。なんてことのない会話や、お笑い番組という場合もあるでしょう。とにかくそれは、自分だけでは入れられないスイッチです。でも、なにかの拍子にパチッと入ります。この本に寄せられている様々な悩みとその回答から、そのスイッチをオンにするきっかけが見つかるかもしれません。

寄せられている疑問、質問はほんとに日常的なことです。好きな人に関すること、友だちに関すること、仕事に対すること。家事に関するものまであります。全然重くないです。でも、それらは人が生きていく上で避けて通れない悩みごとです。パラパラめくってハハハと笑っていると、ちょっと動いてみようかな、と思えます。なんて事を思って、この感想を力いっぱい書いてみました。

これだけは、村上さんに言っておこう

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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