ヒドリガモのお味
『山賊ダイアリー』の呪縛を解放

めでたく今期初、そしてMSS-20初の猟果となった、ヒドリガモ。ヒドリガモを獲ったことも自体も初めてだ。
今期はほとんどヒドリガモの姿を見なかったけれど、昨年まではかなりの頻度で遭遇していた。それなのになぜ今まで獲ったことがないか? 射撃の腕が悪いことが一因だけど、そもそも積極的に獲ろうと思っていなかった。
積極的に狙わなかった理由はなにか? もちろん、『山賊ダイアリー』第6巻の影響だ。

『山賊ダイアリー』第6巻と『わが家でつくる合鴨料理』

主人公の岡本くんと先輩猟師の赤木さんが仕留めたヒドリガモ。なんでも食べちゃう事にかけても先輩である赤木さんが、岡本くんに忠告する。

『山賊ダイアリー』第6巻 ヒドリガモの味について岡本くんに注意する赤木さん
「なんでも食べる人なのに……」と軽く言っているが、赤木さんのエピソードはどれも強烈。(『山賊ダイアリー 第6巻』p.19)

忠告にしたがって丁寧に処理した肉を食べた岡本くんの感想。

『山賊ダイアリー』第6巻 ヒドリガモを食べた岡本くんの感想
丁寧に丁寧に血抜き、臭み消しを行なってこの結果なら、もう食べたくないと思うのも仕方がない。(『山賊ダイアリー 第6巻』p.24)

『山賊ダイアリー』は狩猟を始める前から繰り返し読んでいたので、「ヒドリガモは猛烈に不味い」とインプットされてしまった。だからヒドリガモを見つけても銃口を向けないことも多かった(銃口を向けた時は中らなかった)。

そんなわけでヒドリガモを仕留めたこと自体は嬉しかったけれど、「不味いんだろうなぁ……」という思いもあり、なんとも言えない中途半端な気分だった。

久しぶりの羽むしり、解体。散弾で獲ったので現場で腸抜き済み。まだまだ手際は悪いけれど、臆することはなくなった。ヒドリガモには申し訳ないが、「不味くても解体の練習にはなる」と自分に言い聞かせて作業を進めた。昨年獲ったコガモは熟成に挑戦してみたけれど、意味があったのかよくわからなかったので、今回はすぐにいただくことにした。

内臓

レバー、砂肝、心臓、ついでにササミ。全てシンプルに塩胡椒で焼いてみた。

うまい。

内臓系のお肉はカルガモもコガモもあまり違いを感じなかった。ヒドリガモも問題無くおいしい。まとめて食べたらどれがどれの内臓かわからないと思う。

砂肝は市販されているものと比べると明らかに旨味が強い。そしてコリコリ感も強い。簡単に言えばとても硬いんだけど、不快な硬さでは無い。旨味が濃いのでプラマイゼロ、という感じなのかもしれない。砂肝を好きな人には是非一度食べて欲しい。

ヒドリガモの内臓肉
左からささみ、レバー、次列の上から2つ目が心臓で、残りは砂肝をスライスしたもの。期待していなかったので他の写真を撮るのをすっかり忘れてしまった。

もも肉、手羽先、手羽中、手羽元

わが家でつくる合鴨料理』によれば、匂いがこもってカモ特有の匂いがきつくなるので、煮る時も焼く時も蓋はしない方がいいらしい。前回までは魚焼き用のグリルで焼いていたけれど、確かに匂いをきつく感じた部位もあった。
ということで、塩とたっぷりのブラックペッパーを振りかけ、おろし生姜をすりこみ、蓋をせずフライパンで焼いてみた。

うまい!めちゃくちゃうんまい。

しゃぶり尽くすように喰ってしまった。
濃厚な旨味で、カモの部位では一番おいしいかもしれない。ただ、かなり硬い。これは火の通し方を工夫すればもうちょっとマシになると思うし、噛めば噛むほどうまみを感じるので嫌な噛み応えではなかった。
手羽先はあまりに肉が少ないので、ガラとして利用した方がいいかもしれない。

ガラと胸肉

『わが家でつくる合鴨料理』を参考に、ガラとネギとしょうがで基本スープを作成。これと胸肉を使って念願のカモ鍋に挑戦してみた。

昨年初めて獲ったカルガモの胸肉は、すき焼きでいただいた。しかしその時は薄く切ることができず、結果的に火を通しすぎてレバー感が強くなってしまった。
今回は一旦冷凍したので1mm程度の薄さに切ることに成功。しゃぶしゃぶ風にサササッと火を通し、色が変わったらすぐ鍋から上げて、ポン酢(ねぎ、もみじおろし)でいただいた。

おいしい。おいしい!

ようやく胸肉をおいしく食べることができた。正直に言えばカルガモやコガモの胸肉を焼いたりローストにして食べた時は、「また食べたい」とは思わなかった。でも、カモ鍋で食べた胸肉は今こうして文章を書きながら思い出し、また食べたくなっている。猟期が終わったことが残念でならない。

野生鳥獣の味の不思議

ということで、ヒドリガモはほぼ全ての部位をおいしく食べることができた。
熟成とかよくわからないから胸肉以外は当日食べたし、胸肉も岡本くんのように丁寧に血抜きや臭みを取る処理もせず、冷凍庫にぶち込んだだけ。それで全く問題なかった。

もちろん僕の舌が鈍感な可能性は高いし、期待していなかった分思ったほど臭みがなかったことで、良い印象が補強されてしまった可能性もある。
なにより自分で獲ったお肉は、どうしたってある程度贔屓目に評価してしまう。

射撃場で出会った先輩猟師たちや、ネットで情報発信をしてくれている猟師の発言を調べているうちに、鳥に関しては血抜きよりも一刻も早い冷却が重要だと思うようになった。このヒドリガモもすぐに保冷剤で全体を覆うようにしたので、それが良かったのかもしれない。

野生鳥獣は生息環境や食べてきたものなど個体差が大きいので、結局は食べてみないとわからない。ヒドリガモは判別しやすいし、比較的警戒心も薄い。今回の味が続くと信じて、これからは積極的に狙ってもいこうと思う。

わが家でつくる合鴨料理

レシピ本としても参考になるけれど、「煮る時も焼く時もフタをしない」などカモ肉をおいしく食べるための基本知識が大変ありがたい。また、レシピも家庭の料理という感じでとっつきやすいものが多い。手の込んだ料理はやる気がおきない僕のような人間にはうってつけ。

購入時の価格 ¥1,572

山賊ダイアリー 第6巻

狩猟のおもしろさと楽しさが本当によく伝わる。思うように獲れない日々が続いて、「このまま何も獲れないのでは……」とへこんでも、『山賊ダイアリー』を読めばまた出猟したくなるし、「楽しけりゃそれでいいか」と思える。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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