スリング探しは終わらない
定まらない妥協点、飽くなき好奇心

完璧な文章や完璧な絶望と同じように、完璧なスリングも存在しない。

昨年発見した素晴らしいスリングシステム、UnslingIt。今期は快適に歩けなくなっていた。身体に密着させられずわりと揺れてしまい、ずり落ちないと理解はしていてもイラッとしてしまう。
でもまあ、それは我慢できる。我慢できないのはUnslingItの結び目。銃身の上にちょこんと自立している結び目が、等倍にしたスコープを覗いたときに視界に入ってしまうのだ。そしてそれは、かっこいいMSS-20の見た目を損なう。見た目で選んだMSS-20に申し訳ない。ということで、今期はUnslingItを使わないことにした。

そんな時に、「独り、山の王者に挑む 猟師・久保俊治」を再見。狩猟を始める前に見たきりだったので、当時は感じなかったことや、わからなかったことがビシビシと伝わってくる。以前に増して見入っていると、忍び猟中の久保さんの鉄砲の保持方法に目を奪われた。

久保さんはスリングを首にかけ、身体の前で鉄砲を保持していた。首から掛けた鉄砲はひっくり返ってスコープが下になっている。腕を通したり通さなかったりは状況に応じて選択しているようだ。
「そんなんですぐ構えられるんかいな」と思わせる見た目だけど、獲物を発見したときも落ち着いて体を引き抜き、ゆっくりと据銃姿勢をとって狙いを定めていた。

試しに同じように首にかけて歩いてみた。眼から鱗だった。これでええやん、と思えた。楽で、安全で、素早く据銃できて……といろいろ求めすぎて、鉄砲を担ぐ行為をややこしくしていたのかもしれない。山で歩く経験を積んだことで、昨年より鉄砲の取り回しに慣れたのかもしれない。
このシンプルなスタイルは鉄砲がずり落ちることはないし、両手は自由だ。据銃するためにはスリングから首を抜かないといけないけれど、忍び猟でも巻狩りでも、それぐらいの余裕はある。

もちろん不満もある。ずり落ちないけれど、UnslingIt以上にぐらんぐらん揺れる、というか全然全く安定しない。じゃあUnslignItよりダメじゃん!となるんだけど、大きかろうが小さかろうが揺れを抑える方法はそう変わらないので、MSS-20の見た目を損なわない方を選ぶのは当然のことだ。
もう一点は鉄砲がひっくり返ること。MSS-20のボルトが腹部に当たるし、据銃する時に鉄砲を半回転させるのも煩わしい。そして、見た目がよろしくない。自分の視界に入らないとはいえ、不格好さはやっぱり看過できない問題だ。

この二つの不満は、普通のスリングをサファリスリングのように取り付けることで華麗に解消できた。僕のスリングは長さ調整するためのクイックリリースが付いているので、身体に密着させればグラつかないし、緩めればすぐに据銃することも可能。一時は購入を検討したとても高価なスリング、3HGR Drivenとほとんど同じように使える。

3HGR Drivenの使い方を見た時、「……これやッ! これが鉄砲の担ぎ方の最終形や!」と確信した。もちろんそんなことはなかった。
スリング取り付け部
スリングの取り付け方。銃床側は輪っかにしたパラコードをプルージックノット(?)で固定し、そこにカラビナ状の金具を引っ掛けている。銃口側は普通のスリングを半回転捻って取り付け上方に回している。
クイックアジャストツーポイントスリングの長さ調整部
長さの調整は銃口側で行う。一番上のベルトを引っ張れば緩み、真ん中のベルト(輪っかがついている)を引っ張れば締まる。バックルを外せば完全にスリングから解放される。スコープを覗いて狙いを定める姿勢をとればスリングは自重で下がるので、視界には入らない。
MSS-20とクイックアジャストツーポイントスリング
UnslingItとは違い銃床側のスリングは固定されていないので、肩掛けすることも可能だし、銃カバーをひっくり返して使わずに済む。

気分良く装着し鏡で自分の姿を確認して、昨年も同じような装備で出猟していたことを思い出した。そして、双眼鏡を常時装備していると、とても使えたものではないことも思い出した。同じことを繰り返している自分に力が抜けて、なで肩がさらにひどくなる。

とはいえ、巻狩りで双眼鏡が役に立つ場面はほとんどない。というか、無くても全然問題ない。双眼鏡をすぐ使えるように装備したのは、忍び猟で獲物を発見したいからだ。でも、忍び猟で獲物は発見できなかった。
つまり、僕の大物猟において双眼鏡が役立ったことはない。そして、忍び猟で獲物を仕留めることはもちろん、出会える知識と技術をまだ持っていないように思う。僕が単独忍び猟で大物を獲るのは、たぶんまだまだ先の話だ。

ということで、獲物の探索をやりやすくする前に、鉄砲を持って山を歩きやすくする装備を優先することにした。この装備で山を歩いたり駆け登ったり駆け降りたりしたけれど、想定外の不満点は感じなかった。ようやく今の僕にぴったりのスリングに出会えて、とても満足……していたのに、偶然こんなスリング——たぶんおそらく、完璧なスリング——を発見。現状に満足しつつも、このスリングを試したくて悶々としている。

眼から鱗のゴム製スリング。めちゃくちゃ良さそう……と思ったけどよく読んだら4kgまでしか使えないようだ。僕のMSS-20ではギリギリなので諦められたけれど、部分的にゴムを使うのはアリな気がする。

クイックアジャスト ツーポイントスリング

ごく普通のスリングにバックルがついていて、簡単にスリングを解放できる。さらにクイックアジャスターのおかげで装備したまま据銃することも可能。なぜこのスリングを購入したのかさっぱり思い出せないけれど、組み合わせを変えることでいろいろ応用できて、とても重宝している。

購入時の価格 ¥3,249

プロフェッショナル 仕事の流儀 猟師・久保俊治の仕事 独り、山の王者に挑む

時代との折り合いを見つけながら生き方を模索している様は、しんどそうではあるけれどとても充実しているように見える。狩猟に興味がない人でも、食べ物をどうやって手に入れるのか、社会のシステムをどう見るのか、その社会で自分がどう生きていくのかを、考えるきっかけになると思う。

羆撃ち久保俊治 狩猟教書

久保さんのスリングのかけ方、猟場での銃の取り回し方法なども書かれている。この本はページをいつめくっても、その時の自分に役立つ情報を発見できるような気がする。

購入時の価格 ¥3,080

What’s so bad about feeling good?

Text by pushman

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