初めて見た狩猟の現場
罠猟師との邂逅

その日は初めてマガモを目撃したり、初めて他の猟師さんと遭遇して情報交換をさせてもらったり、「狩猟を始めたんだ」と実感する出来事が多い日でした。そして、初めて狩猟の現場、生き物を食べ物に換える過程を見た日にもなりました。

その日の目的の場所は、山の麓にある大きな畑地帯。すぐそばには大きな川が流れ、山中にはいくつかのため池もあり、キジやカモがいるのではないかと考えていました。
まずは池に向かおうと自転車を止めて山に入る準備をしていると、前方から近づいて来る軽トラック。車内にはご高齢の男性二人の姿。色あせたオレンジ色の帽子を被っていたので猟師であることがわかりました。お二人もこちらに気が付くと軽トラから降りてにこやかに話しかけてくれました。

「兄ちゃん鳥撃ちか?」
「はい。今年から始めた新米です」
「そうかぁ。なんか獲ったか?」
「いえ、まだなにも獲ってません。でも今日初めてマガモを見つけました」
「ほな獲らんかいな(笑)」
と言った感じでとても気さくな方々です。

「俺らは罠や。今この奥でシカかかっとんねん」

罠猟に憧れていながらエアライフル(空気銃)しか持たない僕にとって、罠猟の現場を見ることができる、またとないチャンスです。「罠免許も取得している」「野生のシカを見たことがない」などなど、狩猟を、罠猟を体験したいんだーという思いを必死に伝え、見学させてほしいとお願いしました。
熱意が通じたのかわかりませんが、一瞬二人で顔を見合わせてから、快く同行を許可してくれました。しかも、「これもなんかの縁やから、モモ肉持って帰り」と全く期待していなかったと言えば嘘になる、ありがたい展開になりました。

これは別の日に目撃した箱罠にかかった雄ジカ。じっと座っていましたが、こちらに気がつくと箱罠なんてお構いなしに逃げ出そうとします。

無関係な人間なら進むのを躊躇するような細い道をぐんぐん進んでいくお二人。失礼ながら見た目の年齢から受ける印象とは違い、とても俊敏に藪をかき分けて進んでいきます。3分ほど歩いて立ち止まると「ほら、そこや」と指差しますが、そこにはなにも見えません。「そこや。そこにかかっとるやろ」と再度指差す方を凝視すると、大きな雄ジカと目が合っていることに気がつきました。その距離10mも無かったと思います、自然の中でシカを見つけるのがいかに難しいことなのか、ようやく理解できました。

シカはじっとこちらを見ていましたが、突然後ろを向いて飛び跳ねました。しかし、くくり罠ががっちりと前足を捉えてほとんど動けません。何度も逃げようとしたようで、ワイヤーが絡まり、動ける範囲は罠にかかった時より狭まっているようです。

「昔は鉄砲つことったけどなぁ、今はこれや」と見せてくれたのは、長さ150cm、直径3cmぐらいの鉄の棒。力の入れ具合から鉄パイプのような空洞ではないことがわかります。先から30cm程の直径が一回り大きくなっており、そこで頭を殴るということでした。

一人がシカの後方から殴りやすい位置に追い込みます。追い込まれたシカは動くのをやめると、正面から近づく猟師をじっと見つめていました。鉄棒を手にした猟師は、特に気合いを入れるそぶりも見せず、ふりかぶった鉄棒をシカの頭に打ち下ろしました。
痛みが想像できる鈍い音が聞こえ、僕は初めてシカの鳴き声を聞きました。シカは再び逃げ出そうとしますが、うまく身体を動かせず崩れ落ち、さらに続けて何度か殴打されるとうつろな目でどこかを見つめていました。シカがもう動けないことを確認すると、一人が角を掴んで頭を持ち上げ、もう一人がナイフを首元に突き刺します。勢いよく血が吹き出しますが、シカほとんど動きませんでした。

お二人は慣れた手つきで解体しやすい場所にシカを移動させ、手際よく作業を進めます。途中「これは兄ちゃんのや」と右足を指差し、解説しながら解体します。「もう一本はやってみるか」とこれまた願ったり叶ったりな展開で、見よう見まねで解体開始。皮をひっぺがすと湯気が立ち、パンパンに張ったモモ肉は温いというよりも熱く、さっきまで生きていたことを改めて感じさせられます。
指導のおかげでなんとか解体し終えると、「これも兄ちゃんのやな」と言って、さっきまでシカの足だった肉を袋に詰めてくれました。僕は終始「すげぇな……」と呟いていただけなのですが、気がつけば合計6kgものお肉をいただくという素晴らしい一日でした。

ふと狩猟をしたいと思いたち、勢いだけで突っ走ってようやく見ることができた狩猟の現場。目の前で動物が殺されお肉になっていく過程はとてもショッキングでしたが、貴重な体験でした。そして、頭と身体をフルに使って食べ物を得ることは、とても魅力的でおもしろそうだと改めて思いましたし、自分もできるようになりたいと思いました。

今はお金を出せば簡単においしい食べ物が手に入ります。それはとても素晴らしいことだと思います。おかげで僕のようにずっと獲物がなくても、その日のご飯に困りません。だからこそ、心に余裕をもって狩猟に関する知識や知恵を身につけ、食べること、生活することを楽しみたいと思います。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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