どちらの気分がより良いか?
“What’s So Bad” or “What’s Wrong”...

この『Heartfield(ハートフィールド)』というサイトを立ち上げる時にもっとも悩んだのが、サイト名。いろんな候補がありましたが、村上春樹(の小説、文章)が大好きなので、村上さんのデビュー作『風の歌を聴け』に出てくる架空の作家、デレク・ハートフィールドから拝借しました。

架空の作家とはいえ、デレク・ハートフィールドの著作や言葉は何度も『風の歌を聴け』の中で紹介されます。かなり長く引用されたりもします(正確にはすべてオリジナルの文章なのですが)。その中の一つに『気分が良くて何が悪い?』という1936年に出版された(ことになっている)本があります。
僕はこのフレーズをとても気に入っています。座右の銘といってもいいくらいです。他人に迷惑をかけそうな時に「気分が良くて何が悪い?」とは思いませんが、他人の評価が気になりそうになるとこの言葉を思い出し、一つの指針としてと思い出すわけです。「気分が良くて何が悪い?」と。

『風の歌を聴け』と『職業としての小説家』

サイトを運営し始めた当初は将来に不安を抱え(それは今でも変わりありません)、それでも楽しいことしかやりたくありませんでした(これも変わらない)。なので「気分が良くて何が悪い?」というフレーズは今より若かった僕に突き刺さったのでしょう。ひとつの決意表明として、屋号に続きこのフレーズを拝借したくなりました。でも、日本語では露骨すぎて気恥ずかしいので英語表記に……と考えましたが、そこで問題になったのが英語のタイトル。本当にこの本が実在していればすぐに調べられますが、架空の作家の本なのでそうもいきません。英語が堪能な人に聞けばすぐ英訳できるでしょうが、それが正しいのか知る術がないわけです。

そこで閃いたのが『風の歌を聴け』の英語版。2作目の『1973年のピンボール』とともに、諸般の事情で販売されていなかったのですが(今は販売されています)、幸い日本でのみ英語学習用として販売されていたので購入。目当ての一文は8ページ。そこには『What’s So Bad About Feeling Good?』と記されていました。ということでめでたくこのサイトに「What’s so bad about feeling good?」と記載して10数年。その言葉通り気分良く運営していたのですが、村上さんの最新作『職業としての小説家』を読んでいると「What’s Wrong About Feeling Good?」と記載されているのを発見……。

タイトルを考えた村上さん自身が「Wrong」と記述しているのだからそれが正解だと思ったのですが、「気分が良くて何が悪い?」という訳は架空とはいえ英語タイトルを村上春樹が翻訳したものです。英語を母国語とする人がその日本語を英訳した時に「What’s So Bad About Feeling Good?」としたのなら、やっぱりそれが正解なような気がします。言葉のリズムも「So Bad」の方がしっくりきますし、なにより付き合いが長いので簡単に乗り換えるのも気が進みません。でも、やっぱり元の言葉を考えた村上さんが「何が悪い?」という語感を「What’s Wrong」と訳したのだから……と逡巡していたのですが、プログラムを学んで良かった。アクセスするたびにランダムで2つの画像を表示するようにしました。サイトを訪れてくれる人にとってはほんとにどうでもいいことですが、文字通り「気分が良くて何が悪い?」という感じなことができて、とても良い気分です。

職業としての小説家

タイトル通り、村上さんが「小説家」という「職業」が必要とするものや、文章を書く姿勢について、丁寧に説明しています。今まで語っていたことはもちろん、あまり語られなかったこともたくさん書かれているので、村上主義者必読です。

風の歌を聴け

『職業としての小説家』を読んでから目を通すと、何度も説明している考え方が一貫していると実感できます。

風の歌を聴け – Hear the wind sing

正式な英語版が発売されたからか、現在絶版のようです。翻訳者が違うので、当然細部が違います。

Wind/ Pinball: Two Novels (English Edition)

『風の歌を聴け』初の英語版。『1973年のピンボール』と一つにまとめられています。Kindle版は村上さんによる序文があるので(全作品に書かれたものの英訳かもしれませんが)、英語で読んでみたい方はKindle版をおすすめします。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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