羆撃ち久保俊治 狩猟教書
狩猟のおもしろさの本質

単独忍び猟をしたくて、でも狩猟や山の知識もなくて、調べて考えて調べて考えて……自分で試行錯誤する過程もおもしろいんだと結論づけた。そして、1人で山を歩き回った。

さっきまで寝ていたような寝屋は見つかる。とりあえず足跡を追ってみる。でも、すぐに足跡が途切れてしまい、どこに逃げたかわからなくなる。

「シカの糞がある」「これはなんの糞だ?」「これはさっきの糞より古そう」「この足跡は……シカ?イノシシ?」「でかい糞……クマ?!」

ちょっと山を歩けばたくさんの痕跡を目にすることができる。見るもの全てにいちいち興奮するし、楽しい。痕跡を見つけて、自分が見ていない動物の行動を想像するのは、めちゃくちゃおもしろい。痕跡は多いので、このまま続ければいつかはシカやイノシシを見ることもあるだろう。運が良ければ獲れるかもしれない。それはそれでうれしいだろうけど、自分がやりたいと思っている狩猟とは……ちょっと違う。

自分の想像がどれだけ正しいのか間違っているのかわからず悶々としていた時に、巻狩りに誘っていただいた。狩猟のこと、山のこと、シカやイノシシのことを少しずつ教わり、自分の想像(というか妄想)のほとんどが間違いとわかった。注意して見るべきポイントなども教えてもらい、狩猟がよりおもしろくなった。
そして、狩猟を好きな人たちと一緒に狩猟をすることが楽しみになった。先達の話は、おもしろいし勉強になる。

この本に書かれていることも、もちろん勉強になる。でも、他の本にも同じようなことは書かれている。狩猟は地域差や個人のやり方に違いはあっても、根っこの技術は共通しているからだろう。
他の本よりも伝わってくるのは、狩猟の楽しみ方だ。

狩猟は猟期以外でもにすべきこと、できることがたくさんあるし、それらもとても楽しいことだと、久保さんは書いている。そして、自然の中に身を置いて、観察して想像して行動することのおもしろさを描いている。
獲物の痕跡をしっかりと観察し、動きを想像し、今どこにいるのか、どういう状態なのかを想像する。その想像と現実のギャップを埋めることができれば、獲物を得たのと同じぐらいの喜びがあることは、なんとなくわかる。
痕跡を見たところでなんにもわからない僕でも、想像(妄想)力を駆使して過去を、未来を見ようとすることは楽しいし、おもしろいと知ることができたから。

『羆撃ち久保俊治 狩猟教書』とMSS-20
スコープのレンズカバーの使い方が久保さんとほとんど同じでうれしい。

久保さんの文章は実直で、いろんな段階にいる後進に伝わるように、丁寧に言葉を選んでいる印象を受けた。それらの文章も読みやすくてありがたいけれど、なんといっても後書き(と笑顔の写真)が素晴らしい。伝えるべきことを書き終えたという安堵なのか、ちょっと力が抜けた朴訥とした文章で、“羆撃ち久保俊治”ではなく“久保俊治”からの言葉だと感じた。
久保さんが体験した狩猟の楽しさやおもしろみ、見てきたことや感じたことを、『羆撃ち』とはまた違うテイストのこの文章で書いて欲しいと思った。

羆撃ち久保俊治 狩猟教書

読み直すたびに、その時の自分に見合った知識を補完してくれそう。できることから真似していけば、ちょびっとだけでも久保さんの見ている世界を、楽しんでいる世界を、自分も体験していけるような気がする。

購入時の価格 ¥3,080

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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