オンブレ
おれがかっこいいと思うのはこういうことだ

「オンブレ」とは「男」という意味のスペイン語。そして、この物語の主人公ジョン・ラッセルの呼び名でもある。ラッセルと行動を共にしたことがあり、『オンブレ』の語り部でもあるカールは、「この物語のタイトルは、たくさんあるジョン・ラッセルの呼び名ならどれでもよかったのだけど、一番ふさわしいのは『オンブレ』だ」と語っている。物語を読み終えると、確かにその通りだな、と思える。

アリゾナの荒野を行く七人を乗せた駅馬車――御者メンデスとその部下アレン、十七歳の娘マクラレン、インディアン管理官フェイヴァー夫妻、無頼漢のブレイデン、そして「男(オンブレ)」の異名を持つジョン・ラッセル。浅黒い顔に淡いブルーの瞳、幼少期をアパッチに育てられた伝説の男と悪党たちが灼熱の荒野で息詰まる死闘を繰り広げる。レナードの初期傑作二作品を、村上春樹が痛快無比に翻訳!

エルモア・レナード、村上春樹/訳 『オンブレ』 | 新潮社
『オンブレ』文庫本

物語の主人公ジョン・ラッセルは魅力的ではあるけれど、友達にはなれないし、なりたくないタイプ。行動や判断はいつも正しいけれど、優しさのようなものは感じられないし、人からどう見られるかなんて気にしていない。シンプルな言葉で取るべき行動を伝え、それが伝わらなければ、他人は好きにすればいいと突き放す。こんな態度では周囲の人間が苛立つのもわかるし、もっと別のやり方があるだろうと言いたくなる。
でも、物語がクライマックスに近づき、ラッセルがずっと考えていたことが明らかにされていくとともに、ラッセルへの苛立ちや疑問は氷解する。

この物語の感想を一言で表すと、「ラッセルめちゃくちゃかっこいいなぁ」となるんだけど、その理由を言葉にできなかった。何度か読み直しているうちに、僕が一番惹かれる“寡黙なかっこ良さ”が描かれていることに気が付いた。他人からどう思われようが、現実を直視して、より良い結果を得るために今すべきことを常に考えるのが、ジョン・ラッセルという男なのだ。
一連の出来事を回想しているカールが、自分達とラッセルの違い、そしてラッセルの本質に気がつくシーンは本当に素晴らしい。ラッセルのような男にはまずお目にかかれないことを、心で理解できる。

小学校の通知表にほとんどずっと、「私語が多い」「落ち着きがない」と書かれるぐらいしゃべり続けていたし、今もそう変わらずやかましく生きているので、「必要な時に必要なことしか口にしない」という人物には、相当猛烈憧れる。
そんなわけで、『オンブレ』の寡黙な主人公ジョン・ラッセルは、僕が憧れるたくさんのキャラクターの中の、新たな一人になった。

オンブレ

西部劇やその時代背景の知識はほとんどもっていないけれど、最近どハマりしているゲーム『Red Dead Redemption 2』のおかげで、(おそらく)かなり実際の景色に近い映像を思い浮かべながら物語を楽しめた。村上春樹のあとがきも良い。

公式サイト

エルモア・レナード、村上春樹/訳 『オンブレ』 | 新潮社

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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