ジャンゴ 繋がれざる者
手放しでは楽しめないおもしろさ

僕をほんとの映画好きにしてくれた、タランティーノの新作『ジャンゴ 繋がれざる者』を観てきました。タランティーノなんで血なまぐさいシーンは覚悟していましたが、朝一からは流石にちょっときつかった。でも、めちゃくちゃかっこいいし、おもしろい物語でした。ただ、『パルプ・フィクション』『レザボア・ドッグス』のように、手放しで素晴らしい映画だ、とはちょっと言いづらい。

汚い言葉、残酷なシーンが気になったのではありません。あそこまで残酷だと、逆にちょっと笑ってしまいます。物語の構成もおもしろいし、演出、演技もいちいち「かっこえぇなぁ」となります。映画としてほんとに素晴らしい。タランティーノが好きそうな作品、というか監督が一番気に入ってるんじゃないかと思います。

僕が気になったのは、アメリカの薄暗い歴史である、黒人奴隷の問題がモチーフにされていることです。

僕はずっと、このアメリカのヒドい過去である奴隷問題を扱った映画を製作したいと思っていたが、歴史に忠実な映画にはしたくなくて、ジャンル映画として描きたいと思っていた。

ジャンゴ 繋がれざる者 – Wikipedia

これを読んで、いくらかすっきり……とは言えませんが、「なるほど……」とは思いました。

アメリカに確かに存在した奴隷制度。現在に至るまで……というか、人が生き続けていく限りずーっと引きずっていくであろうこの問題。この物語は奴隷制度がある時代に創り上げられ、絶対に起こりえなかったことを主軸に、実際にあったことや、あったかもしれないことを混ぜこぜにして、物語に深みを増そうとしています。史実通りに作らずジャンル映画として物語を構築し、おもしろい作品を作ったのはほんとにすごいし、何度も楽しみたい作品なんですが、スパイク・リーの気持ちもわかるんです(と言うのは傲慢かもしれませんが)。なんかひっかかる。
以前、アート・スピーゲルマンの『マウス』の感想にも書きましたが、完全なるノンフィクションに実際あった出来事を組み込むのなら、それは本当に必要なのか、完全なるフィクションでは駄目なのか、慎重に考えるべきだと思うのです。もちろんタランティーノはこうした議論が巻き起こる事は覚悟の上でしょうし、その根性もひっくるめてすごいな、と思うんですが。

この件に関しては、「部外者」と言える日本人なら単純におもしろかったと言ってしまえるかもしれません。でも、アメリカ人は、黒人は、白人は、どんな気持ちになるんでしょうね。そして、日本だって過去のいろんな問題をたくさん抱えています。そうしたことを連想すると、やはり単純に「おもしろかった」では済ますことはできません。

こうした難しい話を抜きにすればかっこいいし、おもしろいし、大好きな物語です。かっこいいだけではなく、タランティーノらしいアホな言い合いもおもしろい。「その画いるか?」って感じの無駄にかっこいい血しぶきも健在。後半の奴隷同士の格闘シーンや拷問シーンは相当むごくて、近くの席に座っていた女性が身体を突っ張らかしてました。気持ちは分かります。
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』ほどではないですが、前半と後半で物語のトーンが変わるのもいいです。前半は痛快、後半は結構な緊張感が続いてキリキリします。ということで、タランティーノファンなら絶対確実に楽しめます。そして、重たいなにかが心に残るのも確実です。

ジャンゴ 繋がれざる者

参考サイト

ジャンゴ 繋がれざる者 – Wikipedia

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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