黄金の月
自分を偽る力の使い方

村上春樹さんの「意味がなければスイングはない」を読んでいるのですが、この本でもっとも楽しみにしていたのが春樹さんの「スガシカオ」評です。読んでいて猛烈に「黄金の月」を聴きたくなったので、「CLOVER」を聴きながらこの記事を書いています。

まあはっきりいって、僕が書きたいことは春樹さんが書いちゃってるんですが、春樹さんの文章には、実際に行動を起こさせる力が確実にありますね。そういうわけで、僕なりのせいいっぱいの感想を書いてみます。

「黄金の月」ジャケット

気合を入れた割に月並みな感想ですが、聴けば聴くほど心に響く曲です。暗いというわけではないですが、決して明るくないし、何かが始まる感じもしない。でも、たとえ今大事なものを失うことになるとしても、なにがどうあろうとも、それを受け入れていく強さを持とうという確かな決意を感じずにはいられません。とても慎重に選ばれたであろうその言葉は、理解できなくても、心にひっかかる何かを残します。というより、もともと心に抱いていた大事な感情をいきなり引っ張り出される感じです。ゆっくりとその感情と向き合うと、さらに奥底にある感情も引き出されてしまいます。何度聴いてもそんな感情の連鎖が起こり、より自分のことを理解できる。そんな曲です。

具体的な物語はないのに、歌っていないことまで喚起させるというのはちょっと信じられないことですね。例えば、もう失ってしまったものや、いなくなってしまった人を想起させるのではなく、なにかもっと感覚的な、これまで生きる過程で自分に抱え込んできた物事の根源的な部分をぐらぐら揺さぶられて、まさしく震えてしまうという感じです。

ぼくの情熱はいまや 流したはずの涙より
冷たくなってしまった

どんな人よりもうまく 自分のことを偽れる
力を持ってしまった

黄金の月

冒頭のこの歌詞を初めて聴いた時は、鳥肌が立ちました。こういう感じって、誰もがあるタイミングでふと感じることではないかと思うんです。
「自分だっていろいろと大変なんだ……」という自己憐愍に陥り、それ自体がまた自分を疲れさせる原因となり、自分に厳しく在りたいと思いながら自分を甘やかしているような気分……といった感じでしょうか。
この歌は、こんな風に頭で整理された言葉ではなく、とてもストレートな説得力で、自分の姿を認識させます。「どんな人よりもうまく、自分のことを偽れる力を持ってしまった」と。

どんな孤独を感じても、自分と、自分が信じている誰かを守れる強さを持とう。

この曲を聴いている時、僕はそんな事を考えている気がします。ちょっと大げさですけれど。

黄金の月

自分がどん底に落ち込んでしまう前に聴いておきましょう。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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