アーティスト
幅広い層に映画の素晴らしさを届ける名作

数年前から古い時代のジャズ、というか『Sweet Hollywaiians』が演奏、もしくは関連する音楽にハマっておりますが、古い映画はずっと前から好きです。古い時代に創られ現代まで残っている物語は、ご都合主義な側面が気になる事もありますが、観客が「こうなって欲しいなー」と思う流れが壊れる事無く進んでくれることが多いので、安心して楽しむことができます。ハズレが少ない。だからこそ時代を超えて愛されている訳ですが。
この『アーティスト』はそんな古き良き時代の物語を見事に現代に蘇らせていると思います。悪い意味ではなく、いつかどこかで観たような……といった感じで、懐かしい気持ちで自然と微笑んでしまうような素晴らしい物語でした。

主演の二人は当然現代の俳優さんな訳ですが、メイクや過剰な演技のおかげで往年の大スターの様です。
ジョージ・バレンタインを演じたジャン・デュジャルダンの男前でユーモラスな動きとその風貌は、『或る夜の出来事』のクラーク・ゲーブルを彷彿させます。
ペピーを演じたベレニス・ベジョ。絶妙にかわいらしいですね。ジョージの楽屋に忍び込んで、ジョージのスーツに片手を突っ込んで一人二役を演じるシーンはかなり素敵です。
この二人が初めて共演するダンスシーンがまた素敵。

ペピーはまだエキストラですが、人を引きつける魅力を既に備えています。大スターのジョージは敏感にそれを感じて、演技への集中が途切れがち。この何度も繰り返されるシーンがユーモラスでとても楽しい。そして、じんわり切ない気持ちにさせてくれます。

そしてエキストラも素敵です。『ハスラー』の特典DVDによると、昔の映画はエキストラもちゃんとした俳優ばかりだったそうです。それを踏まえている訳では無いと思いますが、名優がちょこちょこと顔を出しています。その中にあって、群を抜いた存在感を出しているのが、ジョージの飼い犬、アギー。コミカルな演技で猫派の僕でも「こりゃかわいい」と思いました。要所要所で登場し、笑わせたり泣かせてくれます。
落ちぶれたジョージを見捨てない忠実な運転手、クリフトンを演じるジェームズ・クロムウェルもいいですね。どこかで見た事ある率が非常に高い俳優です。この人は無表情なシーンが多いので、相好を崩すシーンはかなり切ないです。
そして映画会社の社長(?)ジョン・グッドマン。年をとりましたねぇ。60歳だそうですが、見た目は早くもおじいちゃんですね。ビッグ・リボウスキ大好きです。

そんな名優だらけの脇役たちですが、誰よりも僕のテンションをあげてくれたのが、ペピーのオーディションシーンに登場している初老の紳士、マルコム・マクダウェルです。強面ながらも気の優しいおじいさん風に老け込んでいますね。40年程前に「アイムシ〜ンギンインザレイン」と唄いながらじじいを蹴りまくり、その目の前で若い奥さんをレイプしていたなんて信じられません。
今年の3月にウォーク・オブ・フェイムの仲間入りをしたそうで、めでたいことです。

こんな感じでずっと映画を好きな人なら、物語以外の部分でも楽しめます。
これから映画を好きになるであろう若人には、過去の名作と触れ合ういい機会になると思います。
ということで、最近では数少なくなってしまった、幅広い層が安心して楽しめる名作だと思います。

アーティスト

古き良き時代のハリウッド映画を好きなら観るべき物語です。

参考サイト

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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