ミッドナイト・イン・パリ
過去最高のロマンチックエンジン搭載

1920年代に憧れて、その時代に生きたいと願う男の物語です。僕自身、「古き良き時代」というフレーズが好きですし、「もっと早く生まれていたら良かったのに……」と思う事もあるので、主人公の気持ちはよくわかります。

何かに強く憧れるあまり現実とうまく折り合いを付けられない男や、芸術家気取りの嫌味ったらしい男。美しくて知的でかわいい女性。ドタバタコメディチックなシーン。そして、知的好奇心を刺激される設定と会話。さらに、最近の作品に垣間見える、優しさや希望みたいなものもたっぷり含まれています。ウディ・アレンらしいいつもの皮肉はそこそこに、憧れているものを実際に体験することで、自分自身をしっかりと見つめ直し成長していく男を、ニヤニヤしながら暖かく見守っているように感じました。

ウディ・アレンのファンなら安心して楽しめる、典型的なウディ・アレン的物語に仕上がっています。

物語の舞台となる1920年代に詳しくはないですが、ほんの少しの知識でその有名人とわかるエピソードがあり、とても楽しかったです。それと同時に、それらの人をもっと知りたくなりました。
歴史上の人々以外にも、『ビフォア・サンセット』でも登場したパリの超有名書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー書店」なんかもちらっと映ったりして、映画好きには堪らないシーンがあり、何度も身を乗り出してしまいました。

『ミッドナイト・イン・パリ』チラシとBlu-ray

この物語、ウディ・アレン作品として過去最高の興行収入を記録したそうです。僕の見立てによれば、その理由は過去の作品よりもロマンチックエンジンの調子がいいからです(笑)。なんのかんの言って、みんなロマンチックなものが好きなんでしょう。もちろん僕は大好きです。

何度も1920年代にタイムスリップするうちに、自分の進むべき道がわかってきたギル。それを祝福するかのように、大好きなそぼ降る雨の夜更けのパリで、素敵な出会いが訪れます。そこで交わされる会話は、80歳を目前に控えたおっさんというかおじいさんだからこそ描ける、シンプルで誰にでも経験があるはずの、とても優しくて暖かい気持ちです。そして、その気持ちに対して、素直に「嬉しいよ」と言えるギルの優しさも、また素敵です。過去の物語の中でもかなり素晴らしいシーンだと思います。

ラストはウディ・アレンらしいご都合主義かもしれませんが、都合のいい解釈が現実になるからこそロマンチックな訳です。現在の自分の置かれている状況に歯がゆい思いを抱いている人や、息苦しさを感じている人は「世の中悪い事ばっかりでもないんだよなぁ」と再確認できる、素晴らしい物語だと思います。

ミッドナイト・イン・パリ

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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