トニー滝谷
孤独についての物語

原作が所収されている『レキシントンの幽霊』は何度か読み直しているのですが、『トニー滝谷』はタイトルだけしか覚えていませんでした。映画化されると知って喜び勇んだものの、内容が思い出せないの読み直し、なんとなくこの物語が自分の中に残らなかった理由がわかりました。

この物語はトニー滝谷の孤独な人生を通じて、孤独というものを描かいています。幸いなことに、僕は子どもの頃からそれなりに親しい友人を持てて、しんどい時は互いに支え合うことができたと思います。とても幸運でした。おかげで強い孤独感を感じる機会がなかった、あるいはかなり少なかった。だから、「孤独についての物語」が自分に刺さらず、残らなかったのだと思います。時を経て大切な人と別れたり、新たな出会いを経験しながら、一人ぼっちではないのに孤独を感じることを経験し、この物語に書かれていることが刺さるようになっていました。

『レキシントンの幽霊』単行本

トニー滝谷は生まれたときから孤独でしたが、自分の好きなことに没頭して、没頭できて幸せでした。そこに素敵な女性が現れ、孤独ではなくなり、ふっといなくなって、また孤独になります。孤独には十分慣れているので問題ないはずなのに、昔のようには生きていけず、途方に暮れます。孤独ではない状況を知ったことで、本当の孤独を知ってしまったわけです。なんと残酷な物語。

もうちょっとなんとなかならなかったのかと思いますが、生きていると途方に暮れてしまうこともあります。「なんとかしないと」「なんとかしてくれ」なんてことも思わず、ただただ自分を傍観している状況。これこそが孤独です。だから物語の中で、孤独の先に救いがあることを示唆して欲しくなるのかもしれません。ほんと残酷で厳しい物語です。

レキシントンの幽霊

『沈黙』も大変おすすめです。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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