ギャシュリークラムのちびっ子たち
26人の悲惨な目に合う子ども達

持っているのがちょっと怖い絵本を読んでしまいました。大人のための絵本作家、エドワード・ゴーリーの『ギャシュリークラムのちびっ子たち』です。柴田さんが翻訳しているということで、前々から気にはなっていたのですが、やっぱり柴田さんって信用できますね。猛烈にはまってしまいました。
絵本なのでさくっと読めますが、テンポよくは読めません。表紙から想像できると思いますが、心躍る楽しい絵本ではなく、もしこんなものを子どもの頃に読んでしまったら、トラウマになりかねない気がします。お子さんのいる方は、この本を入手したら保管にはご注意ください。

アルファベットの「A」から始まって「Z」まで、それぞれのイニシャルの子ども達に、不幸な出来事が淡々と起こり続けます。現実でも不幸な出来事は老若男女問わず、なんの前触れも無く襲いかかってくるものです。しかし、エドワード・ゴーリーはそういうメッセージを伝えるために、この物語を書いたわけでは無いと、僕は思います。「不幸な出来事が子ども達に起こり続けたら、おもしろいな」と思いついて描かれていたような気がしてなりません。そこには悪意すら感じないのです。ただただ、にやついてしまいます。「ひでぇなぁ……ははは」といった感じです。絵がなんともいえないもの哀しさで、そこに描かれている子どもの驚きっぷりや、あきらめがじわーっと伝わってきます。

絵のおもしろさも素晴らしいですが、柴田さんの翻訳も相当効いています。元の英文は、アルファベット2文字ずつ(「A」と「B」、「C」「D」……)といった順番で韻を踏んでいるのですが、それを絶妙な日本語に置き換えています。

  • E is for Ernest who choked on a peach
  • H is for Hector done in by a thug
  • I is for Ida who drowned in a lake
  • J is for James who took lye by mistake
  • K is for Kate who was struck with an axe
  • M is for Maud who was swept out to sea
  • N is for Neville who died of ennui
  • Q is for Quentin who sank in a mire
  • Z is for Zillah who drank too much gin

ここにあげたものは絵と絶妙な翻訳が大好きです。最後の「Z」なんて一緒に飲んでる相手も悲惨ですが、そのジンのボトルのでかいこと(笑)。大人でも死んでしまいます。「Q」もいいんですよ。夢中で追いかけて落ちる寸前の絵なんですが、ものすごく哀れみを誘います。「K」ははっきり言って放送禁止の部類です(笑)。そんな感じで、絵にもいろいろなパターンがあって、例えば「Q」は悲劇が起こる直前を描いてます。「K」は逆で、直接的にその事故なりを描くパターン。「N」なんかはずっと継続している事を描いていますね。いずれもすごい画力なのですが、共通しているのは、その前後のことをこちらに想像させるということでしょうか。ちょっとこれのTシャツが欲しくなってますが、実際に着たらなんかいきなり殴られてしまうかもしれません。場合によってはそれぐらい人を不快にする力があると思います。

巻末に、柴田さんによる詳しい解説が載っていますが、これもいいですね。これによると、アメリカでは実際にこの絵のTシャツがあるそうです。羨ましい。

何回読んでも飽きが来ないし、さらっと読んでもよし、じっくり眺めてもよしの、大変重宝する絵本です。ただ、子どもの人格形成に多大な影響を与えそうなので、子どもには隠れて読むことをお勧めします。……でも実際どうなんだろう? 子どもって残酷ですからね。案外なんにも考えず、けらけら笑ってるのかも。それぐらいならいいですけど、親子で一緒にじっくりと読み込んで、そのおかしみを理解できる子どもっていうのも空恐ろしい気がします。

ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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