ワセダ三畳青春記
おもしろいことを、おもしろく伝える。

数年前に森見登美彦氏の『四畳半神話大系』を読んで四畳半的世界が大好きになり、以来周囲の本好きに喧伝しております。だからというわけではないと思いますが、知人から『ワセダ三畳青春記』という本をいただきました。ワセダと言えば大学。おまけに畳的な言葉がタイトルに含まれているので、新たな腐れ大学生系の物語かと思ったら全然違いました。

登場人物から四畳半的鬱屈はあまり感じませんが、クセがありすぎる住人たちだらけで“私”こと作者の高野秀行さんが一番まともに見えます。しかし高野さんだって怪獣を探しにコンゴまでいったり、控えめに言っても相当猛烈破天荒な人であることは間違いありません。
物語の中心にあるのは『野々村荘』。奇妙奇天烈な人々が集まっていますが、おもしろい人たちが集まった結果として妙な空間になったのではなく、もともとこのアパートの持つ力が変人たちを集めてきたのは間違いないと思います。

『ワセダ三畳青春期』と『四畳半神話体系』

野々村荘では騒音や共用スペースの使い方など想像しうる問題や、『野々村大戦』など意味不明な事件、問題が次から次に起こっていくわけですが、その原因の大半は奇妙な住人たちのおかしな行動や思考です。自分がこんなところに住むのは絶対に無理ですが、友達を住まわせて野々村荘生活を体験させてもらいたいなとは思います。他人事だと気楽に楽しめそう。

当の住人たちは悪い人間ではなく、基本的には良く在ろう、良く生きようと思っているような気がします。少なくとも自分に誠実に生きています。しかしどこか常人とは違う思考回路、判断基準があるのも間違いなく、それが原因で数々のおもしろいエピソードが生み出されているようです。
いろんな登場人物に好意的な感情を持ちましたが(もちろん確実に第三者でいられるからですが)、作者の高野さんには嫉妬に似た感情を覚えてしまいました。

生きていれば腹を抱えて笑い転げたり、いつまでたっても思い出し笑いができるような出来事に遭遇しますが、そのおもしろさを他人に伝えるのは相当難しいです。事実を伝えるだけでも、話す順番を丁寧に組み立てないとなかなか正確には伝わりませんし、まして笑いどころなんて伝わるわけがありません。おもしろいことをおもしろおかしく伝えるのは、大変難しいことなのです。
高野さんの周囲にいる珍妙な人々、奇妙な出来事をどこか羨ましく感じるのは、高野さんが感じたおもしろさが文章から正確に伝わっているからなんだと思います。

この物語のおもしろさを伝えたくて四苦八苦して感想を書きましたが、読んでいた時に感じたおもしろさや気持ちを文章に置き換えられたと思えません。もっともっと書いて、自分の中に生まれた感情を伝える練習が必要だと痛感しつつ、怠け者の僕がうんうん唸ってなんとか伝えようとしていること自体が、この物語から大きい影響を受けたんだなぁと思います。

ワセダ三畳青春記

一人でニヤニヤしているところを見られても恥ずかしくない人以外は、電車内やドトールコーヒーなど他人がいるところで読むのは危険です。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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