うろんな客
軽くて味わい深い

エドワード・ゴーリーの作品は人によって結構不快な思いをする可能性が高いですし、「ちょっと笑えない」と思う人がいても不思議ではありません。そういう人でも、『うろんな客』は単純に楽しめる作品だと思います。

表紙に書かれている、黄色と白のマフラーを首に巻き、白いスニーカー(コンバース?)を履いている珍妙な姿の生き物が「うろんな客」。表紙をめくると好奇心いっぱいの表情で、ある屋敷をのぞき込んでいます。そこに見えるのは裕福そうではありますが、幸せの存在を感じさせない虚無感ただよう家族の姿。「うろんな客」の来訪により、この家族の生活は喜劇的に変化していきます。

『うろんな客』単行本

設定からしてかなりシュールなのですが、この「うろんな客」の行動がさらに意味不明です。家族の前にこそ颯爽と登場しますが、その直後からもう笑うしかない行動を取ります。むかし「ごっつええ感じ」で「ボケましょう」というコーナーがありましたが、この「うろんな客」なら間違いなく「100ボケー」とれたことでしょう。

いつものように絵だけでもおもしろいのですが、今回も柴田さんの訳は冴え渡っています。対句形式の英文を短歌に置き換え、リズムよく読めます。短歌形式にした理由は解説に詳しく書かれていますが、それにしてもこの絵と短歌のはまり具合が絶妙です。ちなみにおまけとして、意味的により完全な散文バーションも収録されています。

解説に「うろんな客」の正体というかモデルが明かされていますが、「なるほど」と思えます。読んでいてなぜか憎めない理由もそこにありそうです。それに、虚無感でいっぱいの家族も「うろんな客」が屋敷に住みついてから、活き活きした表情に見えるのは気のせいではないと思います。そういえば「うろんな客」自身も、無表情なのにその時の感情をうまく家族に伝えているようです。なかなかこういった関係を築くのは難しいはずですが、その正体をしれば「なるほどな」と頷くこともできるでしょうね。

いろいろ検索していたら「Wonderful World of Edward Gorey」というファンサイトが見つかったのでご紹介。かなり詳しい情報が見れます。素晴らしいです。やはり皆さん考えることは同じで、ゴーリーグッズ欲しくなるんですね。このサイトでは、手作りのゴーリーグッズの写真が見れますが、どれもすごいです。特に「うろんな客」のブックエンドが猛烈素晴らしいです。欲しい。

うろんな客

エドワード・ゴーリーの作品の中では、唯一万人におすすめできる物語かもしれません。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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