ラフ|あだち充

ラフ|あだち充

Author : pushman|Book|2005-12-06 Tue 00:58

あだち充さんの代表作といえば、やはり「タッチ」「H2」あたりなんでしょうけど、個人的に一番すきな作品は「ラフ」です。

おそらく「タッチ」の後に書かれた物語だと思いますが、まあ話の流れは「あだち充」的物語の完成形だと思います。この後のあだち充さんの物語は「タッチ」の壁を越えるまでかなり苦しんでいるように思います。その成果が「H2」かなと。

競泳漫画ですが、登場人物や大きな話の流れはほとんどタッチと同じです。主人公の身近な人間はほんとにいいヤツばかり。こんな恵まれた環境で学生生活をおくると、後の社会人生活がなかなかきつそうです。

主人公はそこそこの才能をもちながら、むきになることができないためにトップをとれない大和圭介。実家がライバル関係にある二ノ宮亜美と同じ高校になり、くっついたりはなれたりしながら、選手として、男として成長していく物語です。

髪形がショートカットで最初は仲が悪いことを除けば、もうほとんど「タッチ」なんですよね。顔は言うまでもありませんが(笑)。周辺人物が多いこともあって、顔のパターンははほぼ総出演したのではないでしょうか。ライバルが事故に遭い、なかなか勝負できないのもよくある話ですしね。さすがに死にはしませんが。そして友達も根はいいヤツばかり。というふうに、とても「タッチ」というか、あだちさんの他の物語との類似点がとても多いんです。

それでもこの物語を「タッチ」より好きな理由は、劇的すぎないところですね。その原因の一つは水泳というスポーツが、漫画になると地味になってしまうというか、例えば野球なんかだと逆転につぐ逆転があったり、怪我を我慢し続けて(または隠し続けて)試合続行、みたいなドラマ的要素を生み出しにくいからかもしれません。他の水泳漫画を知らないので、あだちさんの描き方なのかもしれませんが。よくも悪くもそのせいで、登場人物の背景に重点がおかれ、努力の末の勝利にカタルシスを覚える仕掛けが必要なので、結果的に感情移入しやすいんでしょうね。

言葉にしないこと、つまり直接書いていないことを、読み手が感じることができれば、その作品は確実に読者の心に残ると思うのですが、あだちさんはこの手法がとてもうまいですね。あざといといえばあざといのですが、終らせ方がとてもいい余韻を残します。打ち切りになる漫画の伝統的な終らせ方として「ライバルとの戦いに向かう」「新たな冒険にでる」といったような方法があります。「キックボクサーまもる」とかその典型的な例でしょう。あれはあれでおもしろいですけどね、一周回って(笑)。あだちさんの物語の場合、そこんところが非常にうまいです。読者に委ねるというか。「タッチ」では甲子園に出るまでの試合と、出場決定後の切れてしまった達也の気持ちを丁寧に描きますが、甲子園の試合は一戦も描かれていません。確か「みゆき」は最終回に二人が出てこなかったと思います。最後のコマだけだったかな…とにかく、読者がもっとも見たいと思うところを、読者に想像させるんですね。もちろん無責任ではなくちゃんと結果は伝えているのですが、直接は書かない。絶妙です。「ラフ」では、その手法がバチッとはまっていて、最後の勝負の結果だけでなく、圭介と亜美の関係も一つのメッセージで伝えます。こういうことがきちんと決まると、物語が終っても、ずっとのその作品は残っていくことになるんだと思います。

個人的に一番好きなのは、圭介が亜美に告白するシーンですね。そんな重要なシーンも今までの流れを変えずに力むことなく、淡々と描かれています。しかも引きの絵で。ともすれば劇的になりがちなシーンを淡々と描いて、読者に小さな驚きを与えてくれます。初めて読んだ時は「ここでかぁ」とほわぁーんとなりました。亜美の答えもまた良し。

大きなオチも無いし、読者を裏切ることなく淡々と進んでいく話だからこそ、読み込んでいくとぐっとくるものがあるのかな、と思います。そりゃ細かい点でつっこみたい所はあるし、ちょっとこっぱずかしい所は多々あるのですが、なかなかシンドイ世の中で、たまにはこういうことがあってもいいのではあるまいか、と思わせる物語です。少なくとも「タッチ」好きならこれも読んで欲しいですね。

関連記事

ラフ映画化ですか…

ラフ (1)Amazon.co.jpで作品情報を見る

Tag(s): あだち充

[Book] Next & Previous

Comment Form (policy)

(メールアドレスは非公開です)

Others
Newest 5 Items

グレート・ギャツビー愛蔵版予約開始!

のだめ16巻からのお知らせ

少年カフカ|村上春樹と庄司薫

人間競馬|阿佐田哲也

ウディ・アレンはなぜ美女に愛されるのか?|PLAYBOY

Nucleus CMS: Pure Publishing