僕だけがいない街
仕掛けに気がつく度にはまっていく

『ジョジョ』の荒木先生のアシスタントをしていた方の作品ということで、1巻を試し読み。めちゃくちゃおもしろかったのですが、連載中の作品は先が気になってしょうがないので、ぐっと我慢。しかしKindle版が1冊あたり275円と大変お買い得だったので、逡巡して購入。結果、6巻まで一気に読んで、先が気になってしょうがない日々を送ることになってしまいました。

主人公の藤沼悟は29歳の冴えない漫画家で、性格的に一歩踏み込んだ描写ができず伸び悩んでいる。彼の身には、身近で重大な出来事が起きる直前になると、数分だけ時間が戻る「再上映(リバイバル)」という現象が発生する。ある日、母親が事件に巻き込まれたことで、2006年から1988年という過去に経験したことがない長いリバイバルを経験し、自身も関わった過去の幼児連続誘拐殺人事件の謎に迫る——というのが大雑把な話の流れです。

『僕だけがいない街』公式サイト

アニメ化、映画化が決定している話題の作品ですが、それも納得のおもしろさ。悟の「再上映(リバイバル)」は出来事が起きる前に勝手に発動して過去にタイムスリップするので、起きるはずの出来事をどうすれば防げるのかがわかりません。せっかく過去に戻っているのに、戻った理由がわからないのです。でも、自分の行動によってこの先起きる不幸な出来事を確実に阻止できることだけははっきりしています。誰しも自分の目の前で不幸な出来事は起きて欲しくないし、起きてから「自分がああしていたら事故は防げたかも……」と思うのも嫌ですよね。ということで、普段は積極的に人と関わらない悟も、リバイバルが起きた時は能動的に動いて何が起きるかを必死に観察し、阻止する努力をします。

そうして頑張ってある出来事の結果をリバイバル中の行動で変えることができても、多くの場合は悟が得をするわけではありません。場合によっては損することもあります。このあまり羨ましくない「リバイバル」現象がきっかけとなり、過去の連続誘拐殺人事件の真相に迫るのですが、そこに小学生の恋心や友情(実際は大人なのですが)、謎を解きながら成長していく悟の心情、コミカルなロマンチックエンジンが絶妙な按配で描かれており、涙を浮かべたり笑ったりしながら、すらすらと読み進めてしまいます。

主人公と同じ世代だからか、小学生時代のやりとりがとても心に響き、子どもの頃にこんなことをできていたらなぁ……という寂しさや、損得抜きの純粋な優しい絆を思い出しました。物語の結末はまだ先になりそうですが、伏線が点在していたり、心理描写が上手いので、すでに何度も繰り返し楽しんでいます。その度細かい仕掛けに気がつくのですが、先の展開はまったく読めません。つまり、読み返す度に悟と同じ心境を味わえます。

現時点での最新の6巻では物語の核心が描かれつつ、重要な人物との絡みが復活しているので、12月26日発売の7巻が猛烈に待ち遠しいです。

僕だけがいない街 コミック 1-9巻セット

1巻だけ購入すると続きが気になるので、まとめて買っちゃうことをおすすめします。

参考サイト

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

  • Instagram
  • YouTube
  • ANGLERS