ぼくの大好きな青髭|庄司薫

ぼくの大好きな青髭|庄司薫

Author : pushman|Book|2004-06-23 Wed 03:19

薫くんシリーズ、いよいよ完結編です。「ぼくの大好きな青髭 」。前 3 作品はそんなに間を置かず書かれていますが、この作品だけ数年間のブランクがあります。こちらの「庄司 薫氏 年譜」さんで詳しい年表が見れます。最初に刊行されたのが、なんと僕が生まれた年なんですね。そして誕生日に発売されて、といいたいところですが、僕の生まれた 16 日後のようです。今回そういう事を知ったうえで読んだのですが、僕は基本的に単純な人間なので以前より心に染み渡ることになりました。

本当は全くと言っていいほど親しくない親友「高橋」の自殺(まだ死んではないけど)、といういままでの薫くんシリーズからすればちょっと想像出来ないところから今回の物語は始まります。その事件を週刊誌に書かせまいとして、ちょっと奇妙な高橋のお母さんから相当に面倒くさい依頼を引き受け、「奇っ怪なる人物」へと変身して新宿の街を徘徊します。

今回の薫くんは、今までの「話をつまらなくする」「書斎派」なんかではなく、バリバリの「街頭派」として大活躍、といいたいところですが、そこのところは相変わらず薫くんで、世界を一人で背負っているような深刻さでオタオタしています。まあでも、とにかく、「街頭派」として薫くんは精いっぱい頑張るわけです。

数年のブランクを経て登場した薫くんですが、やはり若干雰囲気が変わっています。でもそれはこの物語が、「若者の時代の終焉」という暗く重いテーマを扱っているためかもしれません。「若者」対「大人」、という単純な構造ではなく、「若者」のなかでの対立、ではなくても共生不能な人同士の関係なんかも入り交じって、そして薫くんはそんな全ての人にちょっとずつ共感してしまうという、ちょっと相当ややこしい立場にたたされています。そして読者はその薫くんにまで(!)共感してしまうんですね。いやー、まいったまいった…

ネットでいろいろと検索してみると、庄司薫さんと同級生だった方の「シネマ・パラダイス of オトーサン」やら、有名な庄司薫ファンサイト「Cafe@petit庄司薫」さんや、「FontesAquarum庄司薫賛」さんと、あと、2ちゃんねるの「庄司薫氏はいまどうしてる?」なんかが見つかるわけですが、だーっと読んでみたところ、この作品だけ、連載時と単行本で結構内容が違うそうなのです。やはりテーマが相当難しいために庄司薫さんも相当悩まれたようで。

そのせいか、最初の方はぐっと読み込んでいって共感出来るところもたくさんあるのに、はたと我に返ってしまう瞬間が多かったです。薫くんが散々嫌っていた「鼻持ちならないいやったらしい」感じがするんですね、最初は。それがこの物語の鍵になっているとはいえ。でも中盤から薫くんが立派な「書斎派」代表の「街頭派」になる頃にはそんないやったらしさも感じなくなります。

前作「さよなら快傑黒頭巾」では、薫くん達はまだ夢を終わらせているわけではないし、そうする必要もないのですが、すでに夢破れた「人生という名の兵学校」の大先輩達の援護射撃をすることで、いつか「広い寂しい荒野」に誰もが横たわることをわかっても、自分と、自分の周囲の人間達が夢をあきらめてしまうことに断固として反対意思を持つわけです。

ところが、今回はまさに薫くんと、薫くんの友人達ははっきりと「若者の時代の終焉」を告げられているわけです。個人的な「夢」ではなく「若者が時代を変える時代は終わった」と。ずっとずっと前の作品ですし、最初に読んだときにも衝撃を受けましたが、冒頭に書いたように、自分の生まれた年に「若者の時代の終焉」なんて物語が出版され、そしてそれがほぼ事実であるということに、ふたたび軽いショックを覚えました。

もちろん薫くんもそんなことは認められないと、驚いてオタオタしながらもなんとか頑張って、普段はオドカサレている友人や由美ちゃんを、今回ばかりはオドカシ続けます。でも最後に、薫くんはとてもオドカサれることになるのです。今回の物語の真の主人公ともいうべき、青髭との対面と、青髭に薫くんを引き合わせる中学生の女の子によって。このシーンは…とてもいいです。とても好きです。薫くんの弱さや強さ、そして底なしの優しさ、つまり薫くんというとても魅力的な男の子の全ての一部を見ることができるのです。

青春とか、男の子いかにあるべきか、とかそういったことを猛烈な情熱をもって書かれた薫くんシリーズですが、最後まで我らが薫くんは自分の力の無さを痛感させられたり、それでも「情熱の力のほどを見せつけてやる」と意気込んでみたり、「ただ好きだというだけでは、とてもとても足りないほど素敵な女の子」を目の前にすると「好きなんだ、きみが」の一言を言うのにも命がけで考えて、そのせいで「とんでもないヘマ」を何度も繰り返してしまったり、結局「男って滑稽」なものだということを、どうがんばったところでそういうものなんだ、という事実を確認し続けているような気がします。でもそこには悲観的な雰囲気は全くなくて、というよりも、どうせ滑稽なんだからこそ、せめて「海のような男になろう」あるいは「森のような男になろう」と決意出来たんだと思います。

かっこいいな、薫くんは。

今回薫くんシリーズを読み直して Blog に感想を書いている間に、僕にもとてもとってもついていた 1 日(実際は 2 日)があって、この青髭をはじめ薫くんシリーズ全 4 作と、庄司薫(本名=福田章二)さんのデビュー作「喪失」、エッセイ「バクの飼い主めざして」「狼なんか怖くない」のハードカバーを古本屋で買えたのです。しかも全て 100 円で。薫くんの経験したとてもとってもついていた日と比べると、若干見劣りしますが、とても嬉しくてホクホクした気分で歩くことができました。またしばらくしたら、今度はハードカバーで読み直そうと思います。なんかいろいろ改訂もあるそうなので。

庄司薫のハードカバー本

しかしパラパラとめくってみただけで、また読みふけっていて、あぶないあぶない。これではいけない。と未だ薫くんの影響を受けまくっているわけですが、いやいや、本当にいい物語です。

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参考記事

この時代のよくわからない言葉は、FUTARO's Homepage さんの「全共闘時代用語の基礎知識」でよくわかります。どうもありがとうございます。

Tag(s): 庄司薫

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Comments

Posted by どぜう2004-12-04 Sat 17:30

初めまして。
とても良い感想をお書きになっていると思い、コメントさせて頂くことにしました。
そう。「青髭」は、問題作だと思います。庄司薫氏の四部作は、どれも若者にたっぷりと滋養を与えるような、本当の教養小説とも呼べる数少ない作品群だと思っていますが、実は、そう言う小説は、大人にも、多くの反省をもたらすし、初心とも言うべきものを忘れずにいさせてくれものでもあるはずではないかと思います。
ところで、四部作のうち、最後に(数年のブランクを挟んで)書かれたこの小説は、幸か不幸か、若者とか大人という図式を越えて、現代という時代そのものの運命を語っているような物語になっていますよね? むろん、その物語が書かれたのは、既に30年も前のことではあるのですが、おっしゃるとおりに、ある意味で予言の書になっていたとも言えるわけでした。
そして、その予言の大きな部分は当たっているようにも思える‥‥。
そのことが、庄司薫さんの小説家としての沈黙と、どの程度関連しているのか、関連していないのか、僕にはわかりませんが。
僕が初めてこの小説を読んだとき、他の三作とはちがって、読後、暖かな気持ちの中に、ある寂しさ、があったのを鮮明に覚えています。

さて、こんな僕の感想はともかく、取りあえず興味をお持ち何じゃないかと思って次の情報をお知らせしようと思ったのでした。

「新潮」という文芸誌がありますよね? その11月号(先月号)から、坪内祐三という人の評論が始まっています(今月で2回目)。「福田章二論」です。
いま、何故、と、たまたま図書館で目次に「福田章二」の名前を見つけたときには驚いたものでした。まだ、続くようですよ。

Posted by pushman|2004-12-05 Sun 01:30

どぜうさん
とてもとっても丁寧に読んでいただいて、ほんとにありがとうございます。相当猛烈に嬉しいです。

自分でこの記事を読み直してみて、とても読みにくいですが、熱意だけはこもっているなと感じました(笑)。どぜうさんのコメントのおかげで、もっと書きたいことを書けるように、頑張ろうという気持ちになれました。かさねてありがとうございます。

そして、貴重な情報ありがとうございます。ただ、僕はどうも評論というものが苦手で、というか、感想と評論の違いも分かりませんし、その必要性もよくわからない、というのが正直なところです。これについてもいろいろ書きたいことあるんですけれども。
といいつつ、結構立ち読みしちゃいます。読みたい、けど読みたくない、けど読みたい、けど読みたくないけど(以下略)って感じですね。

でもとにかく、嬉しいです。どぜうさんのサイトも、じっくり読ませていただきます。

Posted by 薫の君2006-02-24 Fri 20:50

ぼくの大好きな青髭がネットでも読めるようなので、単行本と比較できそうです。

http://azure2003.sakura.ne....

2ch庄司薫氏はいまどうしてる?からの情報です。

Posted by pushman|2006-02-25 Sat 00:55

薫の君さん
あー…もう…ほんとに、ほんとうにありがとうございます。じっくり読ませてもらいます。

ちょっとテンション上がりすぎて感謝の言葉がでてこないです。すいません。

ちょっと相当猛烈うれしいです。

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